仙石浩明の日記

2006年4月22日

評価面談

この時期、KLab と KLabセキュリティは 上半期 (9月~2月) の評価面談の季節です。 私は KLab の研究部門である Kラボラトリー (旧社名をとって名付けました) と、 KLabセキュリティの技術本部を担当しています。 昨日は、私の直接の部下の中で一番若い H さんの面談を行ないました。

H さんは昨年の新卒入社なので、まだまだ学ぶべきことはたくさんあるわけですが、 人一倍技術が好きなので、私としても大変期待しています。 いまは、いろんなこと (気配りとか、会社の業績とか) を気にするより、 好きなことを自由に学び、伸び伸びと育って欲しい、と思っています。

彼に話したのはこんなことです:

一点注意してほしい点をあげるとすれば、 様々な技術に関心を持つ際に、強弱のメリハリをつけることを意識する、 という点です。 WWWで公開される情報がどんどん充実していく昨今、 どのような技術でもかなり奥深いところまで WWW で手軽に入手できるように なっています。 このこと自体は素晴らしいことなのですが、 入手が手軽に可能ということが、 分かったつもりに陥るリスクを増やしているわけで、 この罠に陥らないよう注意してください。

特に関心を持った分野、たとえばベイズ理論やオートマトン理論などは、 通りいっぺんの理解にとどまらず、とことんまで勉強してやる、 くらいの意気込みで挑戦してほしいと思っています。

WWW の普及によって、広く浅く学ぶことは格段に容易になりました。 広い視野を持つことはとても大切なことなのですが、 各分野それぞれについて自身がどのくらいのレベルまで学べたか把握していないと、 ほんの表層をかすっただけで満足してしまいかねません。

だから、どんな分野でも、どんなに狭いピンポイントでもいいから 深く深く学ぶ経験が重要だと思うのです。 深く学べば学ぶほど、その深さが基準となって、 その他の分野への理解がどのレベルまで到達したか、 より正確に把握できるものでしょう。

浅くしか学んだことがなければ、その浅さがその人の限界になります。 なにを学んだとしても、自身がどのレベルまで理解できているのか、 自身が理解できていない深淵がどれだけ深いものなのか、 永遠に知ることはないでしょう。

だから、特に若いうちは、とことんまで学んでみて欲しいのです。 H さんには短期的な目標設定として、 古典的な教科書一冊を完全理解することを勧めました:

なにかひとつでいいので、半期かけてとことん学んでみてください。 ひとつの分野をどこまでも深掘りする、ということを一度でも経験した人は、 興味の対象がいろいろ移り変わっても、 分かったつもり状態に陥りにくいものです。 WWW上での学習だと、深堀する以前に興味が発散してしまうリスクがあるので、 評価が確立した古典的な教科書を一冊、完全理解に達するまで読み込む、 といった勉強方法のほうがいいかもしれません。

どんな分野の教科書でもいいと思いますが、 一例として私が学生時代に学んだ「古典的な教科書」を紹介しました:

Switching and Finite Automata Theory
Zvi Kohavi
McGraw-Hill Education ; ISBN: 0070993874 ; (1979/03/01)

27年前の本です! 秒進分歩ともいわれる技術革新のスピードの中で、 1/4世紀以上昔の本が今でも通用するのですから、愉快じゃありませんか。

- o -

追記:
やめるまではがんばりまっせ」から引用:

なんでかというと、結局わしは、会社のためとか、自分の給料を上げるためだけに仕事しているつもりはないからなのです。自分の実力のために、今吸収できるべきことは全て吸収し、機が熟したら、どこにでも飛び出せるようにしておこう、と思っているからです。だから、今は評価がなかろうがなんだろうが、とにかくやるべきことをバシバシこなさなきゃイカンと思っているのです。

その通りですね。 若いときは若いときしかできないことをすべきだと思うのです。 会社がどうなろうと、 スキルさえ身につければ技術者は勝ち残れるのですから。

Filed under: 技術者の成長 — hiroaki_sengoku @ 10:35

No Comments »

No comments yet.

RSS feed for comments on this post.

Leave a comment