久しぶりに「面接 FAQ」シリーズの続きを書いてみます (前回書いたのは一年以上前なのでずいぶん間が空いてしまいました)。 私の面接というと最終面接であることが多いのですが、 履歴書の備考欄に「役員との面談希望!」と書いてある場合など、 一次面接から私が面接することもあります。 (最終の) 役員面接というと、 多くの人が通りいっぺんの面接だと思うらしく、 役員面接で技術的な突っ込みを受けて、 応募者が戸惑うケースが多々ありました。
私の面接で、 比較的頻度が高い私の質問パターンを紹介し、 応募者がどう答えることができていたら採用になっていたか、 振り返ってみようというのがこの「面接 FAQ」シリーズの主旨です。 FAQ すなわち、 面接で(私に)よく聞かれること、 面接官自身が語る面接攻略法。
「面接 FAQ」は続き物ですので、 以下のページも参照して頂けると幸いです。
(1) 高い技術力って例えばどんなことですか?
(2) 何か質問はありませんか?
(3) 前職でいくらもらっていましたか?
(4) 仮に、何をしてもいい、と言われたら、何をしますか?
(5) 「人の役に立つことをしたい」と言う技術者の卵たち
面接というと、 「採用してやる」といった態度をとる面接官がいます。 つまり、 会社が求める資質を応募者が持っているかどうかを判断するのが、 面接官の役目だと思っている人ですね。 様々なチェックポイントを次から次へと確認し、 一つでも条件を満たさなければそこで不採用と判断します。 チェックポイント以外でどんなに優れた点を持っていようとお構い無しです。
その面接官にとっては、 採用した人にやってもらう仕事が明確に決まっているから、 その仕事をする能力があるかどうかが一番の関心ごとなんでしょうけど、 もしかしたら面接官よりよっぽど優れた長所を持っているかも知れないのに、 それを見ようともせずに不採用を決めてしまうのは、 モッタイナイ話ですよね?
私は根が貧乏性なので、そんなモッタイナイことは決してできません。 応募者が優れた点を持っているのなら、 たとえそれが KLab の事業と関係なくても、 応募して頂いたのは何かの縁ですから、 是非一緒に働きたいと思ってしまうわけです。 特定の分野に優れた能力を発揮できる人に入社してもらえるなら、 その分野の事業を始めてしまってもいいとさえ思っています。
なので、どんな分野であれ、 応募者が一番得意なことについて、 根掘り葉掘り質問させてもらうことになります。 私が多少なりとも知っている分野なら、 (面接で聞くのは不適切と思われるような) 異常に細かい点、 例えば実装上の細かい工夫とかまで聞いてしまいます。
そんな細かいことまでいちいち聞いていたら、 面接時間が何時間あっても足らないんじゃないか、 と驚かれるかたもいらっしゃるのですが、 私の面接では応募者の職務経歴を一通り聞くなんてことはせず、 応募者が一番自慢したいことだけを徹底的に聞くのがメインなので、 時間が許す限り掘り下げてお聞きするわけです。
しかしながら、 もちろん私が知らない分野もたくさんありますし、 コンピュータの分野であっても私がニガテな分野もあります。 私が何も知らないような分野だと、どんどん掘り下げて質問する、 というのは無理がありますから、そんなときは開き直って、
素人にも分かるように説明してください
って聞いちゃいます。 こう聞かれたら、なんだこんなことも知らないのか、 などと呆れずに丁寧に説明して頂けると幸いです。
応募者が、ずぶの素人である面接官に丁寧に説明したところで、 所詮は素人なんだから、 応募者がその分野についてどのくらい優れているか面接官に伝わるはず無い、 って思う人はいないでしょうか?
確かに、その分野のことについては何も知らないのですから、 その分野における応募者のレベルがどのくらいなのか (例えば、国内で十指に入るのか、あるいは平均くらいなのか、とか) は分かりません。 しかし説明の仕方だけでも応募者の能力はかなりのことが分かると 私は考えています。
「素人にも分かるように説明してください」と求められたとき、 専門用語を、平易な言葉で置き換えようと四苦八苦する人がいます。 勢い余って、さほど「専門的」でない言葉すら無理矢理言い換えようとして、 却って分かりにくくなったりすることもあります。
確かに専門用語だらけの説明は素人にとって分かりにくいし、 専門家の話が分かりにくいのは専門用語の濫用にある、と 考える人が多いのも事実でしょう。 専門用語だらけのマニュアルが非難されることもありますしね。
しかし、専門用語だけの問題でしょうか? 専門用語の全てを解説した用語辞典を引きまくれば専門書が読めるかというと、 そんなことは決してありませんよね?
専門用語の意味さえ分かれれば、どんな専門分野でも理解できるでしょうか? こう聞けば誰でも、そんなはずはないといいますよね? つまり、 専門用語の置き換えるだけでは、 決して「素人にも分かるように」はならないのです。
どんな専門分野でもそうだと思いますが、 その分野特有の考え方、大げさに言えば思想のようなものがあります。 その分野の専門家なら皆が共有している「思想」なので、 あらためて考えてみたりはしませんが、 同じ「思想」を共有している専門家同士だから、 スムーズな意思疏通が可能になります。
逆に言えば、背景思想を共有していない門外漢には、 専門家同士の会話は「宇宙語」に聞こえてしまいます。 たとえ使っている単語自体は平易な言葉ばかりで、 専門用語が一切含まれていなかったとしても、 背景思想を共有していない素人には、 やはり「宇宙語」に聞こえてしまうのです。
「素人にも分かるように説明してください」と求められたとき、 話題にのぼった事項の説明は一時棚上げして、 まず背景思想から説明する人、 こういう人は間違いなく頭がいい人だと思います。 相手と自分が共有している「思想」は何か、 相手が共有していない「思想」は何か、 そして相手の「思想」に何を追加すれば理解してもらえるようになるのか、 そういったことを考えながら話せる人は、 きっと優秀な人なのだと思います。
いろんな人に、いろんな分野について説明してもらったことがありますが、 実に楽しそうに説明してくださるかたもいらっしゃいます。 私が分からない点を質問すると、 よくぞ聞いてくれたと嬉々として答えてくださるので、 とても話が盛り上がります。 そういう人は、 (面接中の感想としては気が早いんですが) KLab に入社して一緒に働けるようになるのが、 とても待ち遠しく感じられます。
ちょっと違いますが、何らかの企画をたてるときに「それを一言でいうと何ですか?」と質問する、というのはありますね。
Comment by ゆきち — 2007年7月10日 @ 07:30
コミュニケーションスキルとして評価されるべきものとは
コラボレーション!―SFCという「融合の現場」を先日読み終えましたが、かなり興味…
Comment by 3_01-キャリア形成のお手伝い — 2007年7月24日 @ 23:14
私はある条件の下で、計算スピ-ドが
十倍速くなるアルゴリズムを考えたのですが、どこに持っていったら良いのか途方に
くれてます。特許庁にも聞いてみたのですが、アイディアだけでは特許にならないとのこと。会社に売り込んでも会社、特に面接官は自分達が望んでいる業務にしか興味はないようです(このBLOG記事に書いてあるとおり)。転職エ-ジェントもしかり。
以前の記事「ソフトウェアの突極の振興策」
にあるように自ら会社を起こすしかないのでしょうか?
何か良い方法があったらと思います。
Comment by tuzi — 2007年8月3日 @ 16:51
「アイディアだけでは特許にならない」というのは正しいのですが、
製品化しなければ特許が認められない、という意味ではありません。
実施可能であることを十分に説明できれば出願は可能です。
まずは弁理士さんに相談してみてはいかがでしょうか。
Comment by 仙石浩明 — 2007年8月4日 @ 19:28
仙石様, 弁理士の件調べてみましたが、
弁理士への相談に数十万の費用がかかるようで、現在の私には大金です。
私はもともと特許出願というよりも
どこかの会社にての採用を考えているのですが、どこの会社に売りこんで良いのやら。
仙石様のブログにて述べられているように
面接を行う会社は自分達が望んでいる業務にしか興味はないようです。また、転職回数
やら年齢やら前職の給与やらにあまりにも
こだわっているようで、仙石様がブログで
述べられているような面接を行う会社があることが不思議でなりません。特許出願以外で、個人のアイディアを受けつける受け皿のようなもの(組織?)を御存知でいたら教えていただければと思います。
Comment by tuzi — 2007年8月10日 @ 15:44
特許を認めてもらうには、発明が実施可能であることを特許庁に説明できることが必須ですから、(1)自分で説明する、(2)弁理士さんに説明してもらう、のどちらかを選ぶことになるわけです。
tuzi さまは、「どこかの会社に売り込みたい」と考えてらっしゃるわけですが、実はこれは (1) と同じことだったりします。というかむしろ、私の感覚だと、(特許庁に出願する) 明細書を書くほうがよほど簡単であるように思われます。
つまり、明細書は「実施可能性」を説明するだけで良いのに対し、会社に売り込もうとすれば、実施可能であることを説明するのはもちろんのこと、実施することにより「儲かる」ことも説明しなければなりませんから、これは難易度としては数段上でしょう。
Comment by 仙石浩明 — 2007年8月10日 @ 17:46
仙石様, 回答ありがとうございます。
実施可能性というのがどのような意味かよくわからなかったので、よりブレイクダウン
して教えてもらえれば幸いです。
一応数学的に証明しており、学会に投稿した際にもレフリからこの点について
何も言われなかったのですが、このアイディアの利用分野が何かという点ではいささか不透明です。従って、現時点で私には「儲かる」ことの証明までには到達しておらず
(それが可能でしたら、このアイディアを
ベ-スに自分で会社を立ち上げています)、そのため、あちこちの会社を探しております。
Comment by tuzi — 2007年8月15日 @ 14:23
特許として認められるためには、(1)産業上利用可能性があること、(2)新規性を有すること、(3)進歩性を有すること、という三つの要件を満たす必要があります。(2)と(3)については、まあ言葉通りの意味ですが、(1)は少々説明が必要でしょう。「実施可能性」も (1)に含まれます。
といっても、私が素人説明するよりは、特許庁の運用方針などを参照して頂いたほうが確実だと思います。たとえば以下のページなどに詳しい解説があります:
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/27/27-2_1_1_2_1.html
このページ下の、以下のページに「実施可能要件」の説明があります。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/27/27-2_1_1_2_1.html
Comment by 仙石浩明 — 2007年8月15日 @ 14:57