仙石浩明の日記

2009年6月24日

初めて株の「カラ売り」をやってみた ~ 年度末に日経225 買い支えが入る中、見なし値上位の赤字企業を狙う hatena_b

私は大学生の時から株の売買をやっている。 といっても、 所詮は理系の学生が興味本位でやっていたことなので、 売買額も「お小遣い」の範囲。 初めて証券会社の店頭へ行ってみたのが ブラックマンデー (1987年10月19日) の記憶も生々しい 1988年初め。 その後バブル崩壊、平成金融不況、ネットバブル崩壊を体験し、 そして今回の世界恐慌を体験中であるが、 なにせ投じている金額が微々たるものなので、 損失もさほどではない。

いま振り返ってみると、 日経225 (日経平均株価) が最高値をつけたのは 1989年12月29日のことなので、 右肩上がりだったのは株を始めてわずかに 2年間で、 その後 20年間は右肩下がり、 しかも今現在は 1988年のスタート時点の半値以下に下がっている。 これでは長期投資では儲かるはずがないということにようやく気付いたが (遅すぎ! ^^;)、 かといって短期売買するほど相場に思い入れがあるわけではなく、 マーケット情報のウォッチに時間を費やすより、 コンピュータをいじっていたい性分なので、 株売買で儲けられないのは当然の成行。

ところが、 リーマンショックがまだ癒えない 2009年3月11日、 日経225 が今年 2番目の上げ幅 (3/11当時) を記録した。 別にマーケットをウォッチしていたわけではなく、 フツーに報道していたので多くの人が気に留めたはず。 この反騰を受けて報道では景気の先行きについて楽観的な見方を繰り返していたが、 「100年に一度」の世界恐慌が、 この程度の下げで V字回復するわけがないということくらい、 経済に疎い私だって分かる。 ということは株価を上げたいと考えている人が無理に買い上げているに違いない。

もちろん、テレビが率先して景気の先行きが暗いことを吹聴しては、 景気が余計に悪くなるのであえて楽観論のみ強調しているのだろうが、 甘い見通し報道を真に受けて投資したりすれば痛い目にあう、 ということは 20年間にわたって高い授業料を払って学んだところ。

株に関するブログなどをテキトーに拾い読みしてみると、 年度末である 3月に日経225 がある水準を下回ると、 金融機関などの決算上よろしくないことが起るらしく、 そのため誰かが株価を支えているということらしい。 真偽のほどは分からないが、 あまり健全とは言えない株価上昇だということだけは私にも分かる。

ムリヤリ買い上げた株価はいつかは下げるはずで、 しかもこれが決算対策ということであるなら、 4月に入れば上げた分が丸々下がる可能性が高い。 株価の上げ下げなんて、 当たるも八卦当たらぬも八卦の世界だと思っていたのだが、 今回ばかりは「無理な買い上げ」という原因がはっきりしているだけに、 ほぼ確実に下がりそうである。

というわけで、生まれて初めての空売り (からうり, 株を所有していないのに売る契約を結ぶこと) に挑戦してみることにした。 3月末に空売りするぞっと、 思った即その場で、 (普段利用している) ネット証券のサイトの信用取引方法の解説ページに目を通した。 ネットで申し込めば審査が行なわれ、 審査OK ならば数日後に取引開始できるらしい。 審査で落ちれば仕方がないが、 とりあえず申し込んでみるだけ申し込んでみようと、 これまたその場で申込みを終える。 これが 3/11 (水) 20:35 のこと。 大幅反発のニュースを知ってからここまで 1時間も経っていない (^^;)。

驚いたことに 3/13 (金) 03:45 には信用取引口座を開設可能とのメールが来ていた。 まだ 31時間しか経っていないのだが... こんなに早く済むとは、どんな審査なんだろうか? 結局 3/14 (土) には取引可能状態になっていた。

次の問題は、 どの銘柄を空売りするか? まず第一に、赤字企業であること。 大恐慌といえど儲かっている会社も中にはあるわけで、 そんな銘柄を空売りした後に株価が上がってしまっては目もあてられない。 むこう 1年くらいは赤字が続く予想が出ていながら、 株価が堅調に推移している不自然な会社を探すことにした。

第二に、日経225 算出の際の「みなし値」が高いこと。 日経225 は各銘柄を「50円換算」したときの株価を、 単純に合計して平均値を求めている。 だから「みなし値」が高いほど日経225 への影響度が高く、 日経225 をつり上げようとする人にとっては好都合となる。 ちなみに日経225 の騰落にどのくらい影響を与えたかを寄与額と呼ぶらしいが、 見なし値が高い銘柄ほど小幅の株価上昇で寄与額が大きくなる。 寄与額と株価変動額との比率を寄与率と呼び、 一般に値嵩株 (ねがさかぶ, 株価が高い株式) ほど寄与率が大きくなる。

また、 時価総額が大きい銘柄だと、 流通している株数も多いだろうから、 少々の資金では株価が動きにくいと思われる。 ということは日経225 をつり上げようとする人が狙うのは、 少ない資金でも値が飛びやすい銘柄なのだろう。 なので第三の条件として、 あまりに有名な超大企業は避けることにした。

ちなみに、 専門家ぶってエラソーに 「みなし値」 だの 「寄与率」 だの専門用語を振り回しているが、 土・日にネットサーフィン (死語) してニワカ仕込みで覚えた知識に過ぎない。 今まで信用取引をしたことがない全くの素人 (=私) でも、 「空売りしよう」と思った直後に一夜漬けで勉強できるのが、 「知の高速道路」たるインターネットのいいところ。

まず「みなし値」が高い順に日経225 採用銘柄を並べてみる。 まずは上位 10銘柄。 もちろんいつの時点での株価を用いるかによって順位は入れ替わるが、 だいたいこんな感じ:

コード銘柄名利益予想
9983ファーストリテイリング54000
6954ファナック26500
6971京セラ12000
4063信越化学130000
7267本田技研80000
9433KDDI260000
7751キヤノン128500
9984ソフトバンク115000
6762TDK2600
8035東京エレクトロン-43000

「利益予想」は来年 2010年度の予想額 (単位 百万円)。 大恐慌にも関わらず意外 (?) に黒字予想の企業が多い。 唯一赤字予想なのが、東京エレクトロン。 実はこれを調べるまで、 東京エレクトロン という会社が日経225 採用銘柄であることはおろか、 そもそも何をやってる会社かさえ知らなかった。 半導体製造装置の開発・製造会社らしい。 半導体製造というと不況業種というイメージを私は持っていたが、 実際あまり芳しくない業績のようだ。 そう簡単には黒字になったりはしないだろう。

ところが、 株価は 3/9 に 2875円の安値をつけた後、 一気に上昇している。 これはいかにも怪しい。 素人の私にも怪しさが伝わってくるくらいだから、 多くの人が怪しいと思ったのだろう。 空売りがどんどん膨らんで、 信用売残が信用買残の 10倍にも達している。 つまり多くの人が空売りを仕掛けているということだ。

ちなみに、 「みなし値」の 10位以降は以下のようになる。

コード銘柄名利益予想
4543テルモ34500
9735セコム56000
4502武田薬品298000
7203トヨタ自動車-750000
4503アステラス製薬172000
6857アドバンテスト-15000
4523エーザイ55400
4704トレンドマイクロ18400
6367ダイキン工業33000
9613NTTデータ45000
3382セブン&アイHLDGS121000
4901富士フイルムHLDGS-54000
6758ソニー-140000

以上 23社が、 日経225 に占める構成比 1% 以上の企業群。 1/225 = 0.4% なので、日経225 に与える影響は平均的銘柄の倍以上。 みなし値 1位のファーストリテイリング (ユニクロの会社) に至っては 構成比が 5% を超えていて、 みなし値最下位の企業群の 100倍以上の影響力を日経225 に対しておよぼしている。

構成比 1% 以上の企業のうち、 トヨタやソニーは超大企業なので除外すると、 赤字予想は東京エレクトロンの他は アドバンテスト富士フイルムHLDGS だけ。 いずれの株価も東京エレクトロンと同様、 3月上旬に安値をつけたあと一気に上昇していてとても怪しい。

というわけで、 狙いを 「東京エレクトロン」「アドバンテスト」「富士フイルムHLDGS」 に絞って、 しばらく株価をウォッチしてみることにした。 参考までに昨年 3月の株価を調べてみると、 東京エレクトロンは 2008年 3/26 に 6580円の高値をつけた後、 翌 3/27 に一気に下落している。 アドバンテストは 3/25 に高値をつけているが、 4月に入ってもあまり下落していないし、 富士フイルムHLDGSはむしろ 4月に入って上昇している。

空売り決行は 3月最終週、 特に 3/24 か 25 に狙いを定めた。

ところが 3/24 (火) は、 朝から学生さんを対象とした会社説明会を開催予定だった。 しかもその直後に KLab (株) の臨時株主総会が開催される。 これは人様の株なんか売ってないで、 自分の会社の心配をせよ、 という天の声なのか? もちろん説明会も総会も参加しないわけにはいかず、 マーケットをウォッチするのは物理的に不可能だった。 よりによって会社説明会と臨時株主総会の日程にぶつかるとわ... (ついでに言うと、総会の後には某出版社の取材が入っていた)

仕方ないので会社説明会に出る前に、 指値で信用売り注文 (空売り) を出しておくことにした。 寄り付き状況を確認した後、 まず 9:09 に東京エレクトロンを 4030円の指値で注文を出したら、 いきなり 9:10 に約定してしまった。 初めての空売りがこんなにあっさり出来てしまうとわ... このまま株価が急騰するとマズイと思い、 すかさず 9:14 に 4180円の指値で追加注文を出す。 ところが株価は 4100円から下がりはじめた。 4180円になる気がしなかったので、 9:24 に 4090円の指値で注文を出した後、 会社説明会へ出る。

会社説明会の後、 ほとんど間をおかず (スーツに着替える時間だけでいっぱいいっぱい) 臨時株主総会。 総会が終わると後場ももうあとわずかである。 結局 4090円までは戻らず、 出来たのは 9:10 の 4030円の指値注文のみであった。 「お小遣いの範囲の売買」なので、 もちろん株数は最低売買単位である 100株だけ。 信用取引では際限のない損失拡大を防ぐことがなにより大事であるので、 売値より 1000円株価が上がってしまったら、 つまり損失が 10万円に達したら、 問答無用で損切り (ロスカット) しようと決めている。

翌 25日も指値空売り注文を出していたのだが、 株価は戻らず結局出来なかった。 マーケットの状況も気にはしていたのだが、 実は 25日の朝は HP ML115G5 (Athlon 1640B マシン) が 11750円 (送料・消費税込) で売られていたのを見つけてしまい、 衝動買いしてしまった。 劇安PC によってマーケットへの集中力が削がれてしまった感は否めない。 このマシンはサーバ仕様と言いつつ PCIe x16 スロットがあるので、 普通のデスクトップマシンとしても充分使える。 また ECC 無しメモリも使えるので安価なメモリを利用できる。 だから週末は秋葉へ行ってグラフィックボードとメモリを買おうなどと考え出すと、 マーケットのことなど、 もうどうでもよくなってしまう (^^;)。

東京エレクトロンはその後 3/27 に 4120円、 いったん下げた後 4/2 に急騰した。 なぜ 4 月に入っても上がり続けるのか? (後で知ったが G20 期待だったらしい) と思いつつも、 ここで慌てて手仕舞するようでは信用取引をする意味がない。 いったん空売りを行なったからには、 ロスカット条件に達するまでは徹底して売り続ける必要がある。 4/2 に 4090円で、追加の空売りを行なった。

その後も東京エレクトロンの株価は一進一退を繰り返すにとどまり、 期待していたような下落は起きなかった。 むしろ 5月に入って徐々に株価を切り上げてきた。 「確実に下がる」と確信していても、 その通りにならないのが株の難しさなのだろう。;-(

そしてついに 6/1、 モルガン・スタンレー証券が半導体の業界投資判断を中立から強気に引き上げ、 東京エレクトロンの目標株価を 3900円から 5500円に引き上げてしまった (ラジオNIKKEI)。 いくらなんでも 5500円になることはないだろうと思いつつも (証券会社が「強気」の投資判断を出すころには、 ほぼ天井になってることが多いとはいえ)、 この目標株価の引き上げをきっかけに東京エレクトロンが急騰し 6/5 に 4960円の高値をつけると、 心穏やかではない。

そして 6/12、まさかの日経225 一万円台の回復。 ここにいたって、ロスカットもやむ無しの心境になってくる。 やはり生兵法は大怪我の元なのか。 大怪我になる前に買い埋め (空売りした株を買い戻す) すべく、 買うタイミングを探る。

もちろんこの大恐慌がそう簡単に回復するはずはないので、 中長期的にはまだまだ下げ相場があるはずだが、 制度信用取引を利用している都合上 6ヶ月以内に反対売買しなければならず、 期日に余裕があるうちに買うタイミングを探るべきだろう。 ついでに言えば、 高値ではナンピン売り (難平売り, 空売りした後に株価が上昇した場合、 その値段でさらに売り増しして、売値の平均を上げること) しているので、 買うタイミングさえ選べばトータルでの損失はさほど膨らまない。 損失を抑えつつ、捲土重来を期すことにする。

折よく 6/15 (高値警戒感で反落)、 5000円で寄り付いたあと急落したので、 その日のうちに 4710円で、 続いて 6/23 (米株安と円高嫌気で日経平均 300円超す下げ) に 4310円で、 期日の早い売建から順に買い埋めした。

空売り買い埋め 費用
日付単価日付単価 株数手数料逆日歩貸株料 利益
3/244040円6/154710円 100株1222円1440円1197円 -70603円
4/024090円6/234310円 100株1110円1155円986円 -25263円

損失をぎりぎり 10万円以内に納めることができて、 かつ残った信用建玉の損益をプラスにできたので、 次の下落 (東京都議選の直後 or 衆院総選挙の直前?) まで、 我慢して待つ余裕ができた。

Filed under: 経済・投資・納税 — hiroaki_sengoku @ 08:19

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