「頼んでもいないのに送られてくる厄介で迷惑なメール」を、 なぜ「スパム」や「有害メール」でなく、 「迷惑メール」と呼ぶのか、 今のスパムは「迷惑」という域を越えているのではないか、 という趣旨の問題提起を、 (株)サードウェア社長の久保様が 「オープンソースでいこう」で 書かれました。 コメントを書いていたら長くなりそうだったので、 トラックバックの形で書かせて頂きます。
スパムというのは、もとはといえば NetNews の迷惑な記事に対して使われた用語です。 このあたりの話は、 日経Linuxに連載した拙文でも解説しております。 歴史上初めて大問題となったスパムも引用しておりますので、 参考にしていただければ幸いです。
で、迷惑メールのことをスパムと呼ぶ人が現れ始めてきたころから、 私は「スパムってのは NetNews の記事についての用語であって、 メールについてスパムと呼ぶのは誤用だ」という主張も込めて、 「迷惑メール」と呼ぶようにしていました。 その後、迷惑メールという呼び方が広まったので 変な用語が広まらなくてよかった、と感じたのを覚えています。
なので、私は「スパム」と呼ぶより「迷惑メール」と呼ぶほうが適切と 思っております。 「頼んでもいないのに送られてくる厄介で迷惑なメール」は、 UBE とか UCE とか呼ばれていますし、 「フィッシング(詐欺)メール」については、 そのまま「詐欺メール」と呼ぶのが適切だと思います。 また、「メールボックスを埋めつくすほど届く」メールは、 メール爆弾と呼ばれていますね。
久保様曰く:
「迷惑」という語感が気になっているわけなんですが、 このことについて仙石様はじめ皆様はどう感じておられるのでしょうか。 我慢してやりすごせばいい、というニュアンスではなく、 極力工夫して積極的に排除すべき対象、 ということを強く主張すべきだと思うので、 見直すべき時期なんじゃないかということなんです。
私としては、「迷惑」という言葉に、久保様がおっしゃるように、
「迷惑」だったら我慢してやりすごしておけばいい、というイメージがあります。 電車の中でわめく人に対する対応みたいな感じですね。
というイメージがあるからこそ、 「迷惑メール」という呼び方が適切だと思っています。 迷惑か否かは、あくまで受け手の主観、というイメージですね。 「有害メール」という名前を仮につけたとすると、 「誰が有害と判断し規制するのか」という問題が出てきてしまうと思います。
ご存知の通りインターネット全体の管理者はいません。 あるメールが迷惑か否かは、 そのメールを受け取る(あるいは送信する)各サイトの 組織の判断にゆだねられるべきであって、 第三者がとやかく言うべき問題ではないと思うのです。 気軽に「有害」と言ってしまうと、 暗黙のうちに「有害認定し規制する」権威を認めることになりかねない、 という危うさを感じます。 条例で定められている「有害図書」の場合と比較してみるといいかもしれません。
もちろん、ネットは現実社会の一部ですから、 ネットの外で犯罪であれば、ネットの中でも犯罪です。 だから法律に照らし合わせて「詐欺」に該当するなら 「詐欺メール」と呼ぶべきですし、 その他の犯罪に該当する場合も同様でしょう。 ただし、犯罪か否かを判断する際に拡大解釈は許されませんから、 犯罪と認定するだけの十分な法的根拠が必ず必要だと思います。 「有害図書」の場合は、 「青少年の人格形成に有害である可能性がある」という趣旨の定義が 各都道府県の条例で定められていますね。