gcd.org は, 私が道楽で運営しているドメインです。 私は貧乏なくせに, 月額 3 万 2000 円 *6 もする OCN エコノミーを契約しています。 当然, こんな大金を毎月払うだけの余裕はありませんから, 会員を募って任意団体 GCD *7 を作りました。 つまりメールとネット・ニュースを会員に提供する代わりに会費を集め, OCN の代金の足しにしているわけです。
会員の多くは, UUCP *8 で gcd.org のゲートウエイ・マシンに接続しています(図 1)。 UUCP 接続の場合は,gcd.org のサブドメイン, あるいは独自ドメインを使用することができます。 言い替えると, メール・アドレスをいくつでも作ることができるわけです。
図 1 GCD ネットワーク構成図 |
UUCP を過去のプロトコルだと思っている人がいるかも知れませんが, インターネットのユーザーすべてが常時接続するようになるまでは, まだまだ UUCP は有用なプロトコルだと言えます。
多くの人, 特に Windows ユーザーの大半が, PPP (Point-to-Point Protocol)でプロバイダへダイアルアップ接続し, SMTP (Simple Mail Transfer Protcol)でメールを送信し, POP (Post Office Protocol)でメールを受信し, そして,NNTP (Network News Transfer Protocol) でニュースを読み書きしているのではないかと思います。 ところが,SMTP ,POP ,NNTP のいずれも, 元々常時接続を前提としたプロトコルです。 ダイアルアップ接続で使うのは変則的と言えるでしょう。
これらのプロトコルは常時接続が前提ですから, 通信時間を短くしようとする工夫は一切入っていません。 それどころか, NNTP の場合, サーバーの過負荷を回避するために, 集中的にデータが流れないように(つまり,通信時間が長くなるように) する仕掛けすらあります。 ダイアルアップで使うのは, はなはだ不適当と言えるでしょう。 日本のように電話代が高い国ではなおさらです。
一方, UUCP は元々ダイアルアップで使うことが前提です。 通信時間を少しでも短くするために, 転送するデータをあらかじめ用意しておき, ダイアルアップしたら一気に転送してしまいます。 通信中のサーバー側の仕事は, 単にファイルを転送することだけですから, 多少マシンの負荷が高い時でも転送速度は落ちません。 さらに, ニュースの場合は, あらかじめ複数記事をまとめて圧縮しておくので, 転送するデータの量が半分以下で済みます。
例えば, 主に日本語が使われるニュース・グループ群として有名な fj を購読するだけなら, 1 日に 10 分程度 UUCP でダイアルアップするだけで済みます。 NNTP だと少なくともこの 10 倍くらいの時間がかかるでしょう。 サーバーの負荷が高い場合は, もっとかかるかも知れません *9。
このように, ダイアルアップ環境にとって最適な UUCP なのに, UUCP サービスを提供するプロバイダがほとんど無いのは不可解なことです。 もっとも, UUCP サービスを提供するプロバイダが少ないおかげで, GCD のようなプロバイダもどきの存在価値が出てくるわけですが。
さて GCD は, 1996 年 1 月の発足以来 *10, 順調に会員数を伸ばし, 現在 1 日当たりの UUCP 接続受付け回数は 90 回を超えています。 しかし接続時間は 1 日あたり 90 分程度に過ぎず, ISDN の 2 回線が両方とも埋まって BUSY になることは, まずありません。 1 回あたりの接続時間が短い UUCP ならではですね。 会員数が現在の倍になったとしても, 恐らく大丈夫でしょう。
しかし, そこそこ会員が集まった現在も収支は依然として大赤字のままです。 累積で言えば一体どのくらいの赤字か, 考えたくもありません。 やはり個人ユーザーにとって OCN エコノミーは高額すぎると思いますが, かくも多額のお金を払っても, 自宅を常時接続にできるのは魅力です。 いったん常時接続を体験すると, ダイアルアップ接続には戻れません。
常時接続の魅力というと, いつでも Web に何時間でもアクセスできる, というメリットを第 1 に思い浮かべる人が多いかも知れません。 しかし, これは私にとっては大した魅力ではありません。 実際, Web にアクセスするだけなら ダイアルアップ接続でもさほど見劣りのしない環境を作れます。 ISDN ならば接続は 2,3 秒で済みますから, 最初にブラウザをクリックしたときに 2,3 秒余計にかかることを除けば, 常時接続とほとんど変わらないことでしょう。 しかも, 常時接続よりよっぽど安くつきます *11。
CATV を利用したインターネット接続が可能な地域では, さらに安く接続できますね。 残念なことに CATV プロバイダの多くが, 動的に IP アドレスを割り当てているか, あるいはプライベート IP アドレス *12 を用いているため, Web にアクセスするくらいしか使い道がありません。
では, 常時接続の魅力とは何か。 それは各種サーバーを自由に立ち上げられることに尽きます。 本連載では, 私のマシンで走らせているサーバーを思いつくままに紹介し, セキュリティを意識した構築, 運用法を解説していきます。 連載のネタが尽きるころまでに, 読者の皆さんが常時接続の魅力にとりつかれれば, 本連載の目的が達成されたことになります。
(常時接続の魅力)
本稿は日経Linux 2000 年 4 月号に掲載された、 実践で学ぶ、一歩進んだサーバ構築・運用術, 第 1 回「ここまでできる充実環境」を日経BP 社の許可を得て転載したものです。
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